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ある日、




いつものようにコロッセオに到着すると

イタリア人カメラマンのリカルドがいた

コロッセオの集合写真を担当するイタリア人カメラマンは5人いて、

それぞれがルーティンで仕事を回していた

というわけでこの日は、リカルドと私のコンビの日だった

リカルドは40歳 イタリアとスペインのハーフで

身長190cm 体格も相撲取りのようだった

性格はとても温厚で見た目はまさにイタリア版トトロと言ったところだ

リカルドはカメラマン仲間では珍しく日本人に興味を抱いていて、

私にもよく質問してくる好奇心旺盛な人間だった


世界遺産コロッセオでは様々な人間が働いてる

今では絶滅危惧種のグラディエーターの格好した大道芸人から

免許の持っていないコーディネーター、いかにも怪しい現地ガイドなどだ

語学の勉強を兼ねて学生がバイト感覚で行ってるのが多い

その中でお土産やさんを紹介する客引きという仕事が存在した

いつもカメラマンと一緒に行動してるマリオという50歳を過ぎたおじさんがそうだった

私はてっきり会社の役職か何かだと思ってたが

客引きだと聞かされたのは、コロッセオで仕事を始めて一ヶ月以上経ってからだった


マリオは日本人ツアー客がコロッセオにやって来ると、一目散に添乗員に話しかける

そしてお土産屋やレストランなど店を紹介して売上の何パーセントをマージンとして頂く

という仲介業を営んでいた

マリオはこの道何十年のベテランで、コロッセオにいながら遠くナポリの店を

紹介してたりもしていた

マリオはいつも小綺麗なスーツ姿だったが、野良猫のような上目遣いで話すものだから

日本人スタッフの磯野さんは、ネコバスとあだ名をつけていた

コロッセオを背景にリカルドとマリオが並んで立ってると

トトロとネコバスそのものに見えてきてなんだか可笑しかった。


この日も昼が近づき1回目のデリバリーの時間が来た

スタッフは皆デリバリーが嫌いだった

私は運動不足解消のため、率先してデリバリーに行くようにしていた

サウナのような暑さの中で、汗をひたすら流すのが私の充実感を高めたのだ

この日は珍しくスペイン階段でのミートが3件重なる

スペイン階段とはオードリー・ヘップバーンが映画「ローマの休日」で

ジェラートを食べてたシーンで有名になった教会のある場所だ 

半世紀を過ぎても、そのままの姿を保っているところが日本とはかなり違う

世界的な観光名所だが、私にとっては仕事場だった

1件は上 上というのはスペイン階段上に建ってるトリニタ・ディ・モンテ教会

のそばという意味で、

2件はスペイン階段下 下はバルカッチャの噴水付近でミートするという意味だった

地下鉄を降り、スペイン階段を駆け上がる 上から見下ろす方が良く見えるのだ

時間より先にスペイン階段の上で待機してると電話が鳴った

「大塚さん、スペイン階段下に着いたので急いで向かってください」

階段を駆け下りる

スペイン階段は130段以上ある大階段で大理石造りだった

一歩一歩が大幅な造りで、馬で駆け上がるように作られている

世界中から観光客が集まってごった返してる中、階段を走って降りる

一軒目を無事終わったところで、2本目の電話が鳴る

次は上だ

息も絶え絶え2件目のデリバリーが終了した

そのタイミングでつり銭を確認するとユーロ不足に気づく

急いでつり銭を作らなきゃならない

辺りをキョロキョロすると、メトロへ向かう近道にエレベーターを発見した

「あっこんなところにエレベーターがある!」

スペイン階段を上へ下へと駆けずりまわった日々とおさらばする日

そう、私のデリバリー革命の日だった。


売店で2ユーロのコーラを買いつり銭を確保する

場所によっては2.5ユーロだったり4ユーロ請求されることもある…

3件のデリバリーが終わり、ほっとしたところでさっき一気飲みしたコーラのせいだろうか

尿意が襲ってきた

スペイン広場には公衆トイレが有るので助かる

トイレを見つけられず尿意に襲われた観光客のあたふたする姿を

ここローマでは珍しいことではない

アメリカ人のおばちゃんがトイレが見つからないと泣き叫んでた場面にも出くわした

ローマ・マラソンでは道路が規制され金網が立てられる

大きく迂回しなければならない状況に陥る

ドアの取っ手という取っ手に、うんこがこびりついていたこともあった

便意を読み間違えると、とんでもないことになる

ローマの街を歩くときには、トイレの場所を知ってることが必須なのだった

その後、マクドナルドにはトイレが必ずあるということを知ったし、

Barでトイレを借りるというのが常識、ということを知ったのは

ずっとずっと後になってからのことだった。


さあ昼ごはんの時間だ

スペイン広場の売店でコーラとピザを買いそのまま広場で貪り食べる 

セットで8ユーロ弱。

飲み物は大概コーラが多かった

だいたい1件のデイバリーで、1本のコーラを飲む習慣がここローマで培われた

私が、というより身体が欲するのだ 平均で1日3リットルは飲んだと思う

レッドブルよりコーラでエネルギー補給していた

過剰な糖分の取りすぎのように思えるが、過酷なデリバリーで私の体重はみるみる

落ちていった

最終的に3か月間走り回り、帰国する時には体重が7kgも落ちていた。


スペイン階段からコロッセオへの帰るルートは

地下鉄を乗り継いで帰るのと

ひたすらまっすぐシスティ通りを歩いて帰る

あとは市内中心部を走るバスで帰る

ローマの街を知るために、いろいろな道を探検して歩くのが一番だが

今日はひとまず真っ直ぐ帰ることにした

地下鉄でテルミニ駅に着くと、再び尿意を感じた

この街で我慢は大敵 迷わずトイレへ駆け込む

どこの公共トイレでも50セントの使用料がかかる、そういう理由でテルミニ駅はなんと

両替機が備わっていた

そうだ テルミニ駅で両替すればいいんだ

スタッフがデリバリーに行きたがらない理由はつり銭問題があるからだった

会社からユーロのつり銭は支給されるが、直ぐ無くなってしまう

意向としては日本円で買ってもらいたいので、私たちにユーロのつり銭を少なく持たせる

のだった

これで写真のつり銭に困ることはない

この日2度、私にデリバリー革命が起きた日だった。




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