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ヴォルフガング・ティルマンスMOMENTS OF LIFE Review

ヴォルフガング・ティルマンスは、2000年にイギリス人以外では初めての

ターナー賞を受賞する

ロンドンとベルリンを拠点に活動するドイツ出身の写真家である。


一見すると誰にでも撮れる様な日常の写真の数々、

誰の携帯の中にも保存されてる何ら変わり映えしない写真と、ヴォルフガング・ティルマンスの写真とでは、一体どういう違いがあるのか?

ロゴス・レトリックを使用し、ヴォルフガング・ティルマンスをエクリチュールする 

そしてMOMENTS OF LIFEの紐を説いていく。



水平線は見えるが、何処でもないところからの眺めとして見る

するとこれは、ティルマンスの思考の海からの眺めと、定義することができる

展示はその眺めの一端を鮮明にしているのである

単なるひとつの選択肢に過ぎないし、

それは「陶酔、気配と香り立つ匂いの充足感」という、ティルマンスの観念から

来てる事が分かって来る。



ティルマンスが提示する、思考ゲームのルールを理解し始めると

次は、目に見える配置された写真について吟味していく

ティルマンスが経験した記憶の一端が、連続不連続に壁一面配置されてる

この可視化された意味が吸収しながら消えていく印象と、同時に新たに浮かび上がってくる現象というのは、

これはつまり「詩」だ、という事に帰着する

永遠に始まりも終わりもないように、本展の展示も始まりはない永遠の記憶を

内包しているのだ。



空間というものに精細に吟味し、思考する人間がティルマンスである

その人間が「記憶」について語ってるのが本展である

彼が言う「極端に秘密主義にならない」「複雑にしない」は、

「写真を写りこませない」に繋がる

主題がはっきりしたモノだけが価値ではない

写真とはこうだ!と脅迫めいた観念に捉われない思考の行き着く先は

「眩しかったあの日、あの光景」を、関係の中で保ち続けてる詩的な歩みとなる

カメラを向ける先に、初めに心に描く感情は「変化のきざしをそっと置いて帰る」 

他にない

出来事は発生する前にすでに起きているし 発生したと見えた瞬間には、

すでに終わってしまっているのだから。




知り尽くすことの出来ない記憶の断片を並べ、再構築していく行為とは

この世には絶望しているが、見方によっては美しい場合もある

分類してバラバラになったものを、類型として組み直すことが近代的であるならば

ティルマンスがいう、3Dとはつまり頭脳に中の蓄積してる記憶のことである

それを物質として捉えたアラヤシキの断面を、目が認識するまでスタライズ(効果を与える機能)して見せて行こう

そうすることで「場」に行き着く、そういった内的抒情的発明、五感を誘惑する有効な投影法のことであると知る

ティルマンスが言った「Galleryでの展示は実験場」という言葉を思い出す。




静かで、ひっそりとした雅やかな風情のあるティルマンスの写真は、

観察者である私たちの心の中にも、静寂感を呼び覚ます

日本では、香りと呼ばれる静寂感「しじま」は、圧倒的な静けさを表す大和言葉である

古来から伝わる美しい大和言葉は、日本で育まれた私たちが詩人だった頃の記憶

シルエットを浮かび上がらせる。




一際目についた一枚の写真がある

本来ならば、半裸のオリエンタルな貴婦人達が、ピクニックに夢中になってる姿が

描かれたであろうロマン主義絵画

そこから着想を得たティルマンスらしい感受性で、ポリティカルな価値序列を脱構築してる精神運動の写真である。



この写真を眺めてふと、

写真から目を上げると、視界に入ってくる白い壁が、見えてる写真より遥か大きな影響を

私の思考に与え、立体的な風景に感じてきた。



「優雅なのは描画ではなく、その中に含まれた白い空間である

満ち足りてるのは描画ではなく白なのである」とジャン・ジュネがジャコメッティについての書いてたエッセーがある。


改めて見回すと、私の目の前になかば投影されたかたちで現れる白は、虚無では無い

白という頭脳的な色だから、隠れた力に導かれ神秘さが増し、ナイーヴで優雅な白に見えてくる瞬間があったのだ。



額装されないインスタレーション形式で展示された、それらの写真は

簡易なクリップと展示釘で留められている

ティルマンスは展示の際に、壁に留める釘の向きにまで厳密な指示を出していたと言う

ティルマンスのドイツ人としての抗えない気風、気質はノイエ・ザッハリヒカイトに繋がる

克明な形態描写と冷徹な眼差しが伺える逸話である。



こうしたティルマンスの芸術作品にまで昇華された伸縮自在な写真たち

絵画の歴史すら横断した系譜と遊戯というのは、ものを見る目を養ってくれる

それらは「私らしい写真とは何か」という問いに促されていく

さらには、通俗的な日本の写真に「潮目の変化」を生じさせている。




参考文献

「判決」

ジャン・ジュネ/[著] 宇野邦一/訳

出版社

みすず書房


「写真幻想」

著者名

ピエール・マッコルラン/著 昼間賢/訳

出版社

平凡社


詩としての哲学-ニーチェ・ハイデッガー・ローティ

出版年

2020年02月

著者名

冨田恭彦/著

出版社

講談社


サンパウロへのサウダージ

クロード・レヴィ=ストロース/[著] 今福龍太/[著] 今福龍太/訳

出版社

みすず書房



WOLFGANG TILLMANS MOMENTS OF LIFE

SELECTED WORKS FROM THE COLLECTION

FEBRUARY 2ND,2023-JUNE 11TH,2023

ESPACE LOUIS VUITTON TOKYO








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