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執筆者の写真takujiotsuka

romeの歩き方



5年間、ローマの仕事を請け負い

日本とROMEを行ったり来たりした日々が続いたわけだが、

ローマの会社では入れ替わり立ち替わり、様々な日本人スタッフと一緒に仕事をしてきた

忙しい毎日に追われスタッフ達とはそれっきりになってしまったが、今も付き合いがあるのは角尾くん一人かもしれない。

初めて渡航した真夏のヨーロッパ ROMEでの3ヶ月間、苦楽を共にした仲間いう意識 

それと角尾くんは変わり者だったので、私は興味を抱いたのかもしれない。


前にも書いたが、角尾くんはのっぽの男の子 特技は歩くのが異常に速いという子で

いつも競歩をしてるというような歩き方で、人より先に進まないと気がすまないという

タチだった

女の子とデートしても絶対に歩調を合わすことはしないと本人も言っていた

オーストラリアの映像学校に留学してた角尾くんは、英語力があって映像関係のことは

大概知っていたので頼もしくはあった

しかし、どこか抜けててつり銭間違えはしょっちゅうあるし、道も満足に覚えられなかった


ある時、角尾くんが一人郊外へデリバリーに向かった時だった

写真はしっかり届けたと報告が入ったが、どうやら帰り道に迷ったらしく

声がパニくっていた

暗くなってバスも無くなり野宿するしかない状況に陥った角尾くん 

思い切ったのかヒッチハイクで市内に帰って来たことがあった

人間追い込まれたらなんでもするんだと驚いたものだ

同時に、いつもそのくらいの気構えで仕事に臨めと誰もが思った。


ローマで出会った時は痩せていた角尾くんは、実はとんでもない大食漢で学生時代は

引きこもりで太っていたそうだ

そんな角尾くんのもう一つの伝説といえば

社宅があるColli Albaniの駅前にMcDonald'sが一件あるのだが

彼の夕食場所はいつもそこだった

ROMEで過ごした3ヶ月間、1日も欠かさずに夕食はMcDonald'sのビッグマックという

ことだった

店員ともすっかり顔なじみになり、最終日には夕食で頼んだビッグマックの他に

もう一つビッグマックをプレゼントされたと嬉しそうに語っていた。


角尾くんは社宅があるColli Albaniのマンションに前田さんとシェアをしていた

決して他人と歩調を合わすことない角尾くんは、先輩だけど年下である前田さんに

いつも怒られると私に嘆いていた

私は前田さんと面識がなかった時なので、角尾くんに言ってる意味が全くわからなかった

相手は女の子だし些細なことが気になるんだと、角尾くんを諭し

自業自得な面もあるだろうと思いつつ、私はシルバーナさん宅で良かったと

ホッとしたものだった。


ある時、角尾くんが口を滑らし前田さんの悪行の数々を暴露した

仕事中、前田さんがいつも眠そうに「具合が悪いです」という顔をしてたのは

毎夜、毎夜イタリア人の男の子達と遊び惚けていたのが祟ってのことだった

本気で具合が悪いのだと私たちは真に受けて、仕事の長期離脱を許してたりもしていた

しまいに彼女は、日本から彼氏を呼びつけColli Albaniのマンションに囲ってたという

オチもついていた

純粋にイタリアに仕事するためだけに来る人間は、いない 

皆、遊びたくてイタリアに来るのだ 間違いない

しかし代償としてROMEの仕事が存在してたわけだが、これが予想以上に大変なのだ

日本ではなんてことない事でも、言葉が通じない海外ではホスピタリティーというものが

問われてくる

若い世間知らずの彼女は、早々に心が折れてしまったのだった

その後、私は前田さんと仲良くなり彼女に誘われイタリア人達と飲みに行ったことがあったかなり楽しかった記憶が残ってる

イタリア人が日本語で「ノミホーダイ」(飲み放題)と連呼する姿は、

思い出すと今でも笑ってしまう

例えて言うなら、

前田さんの豹変する姿は日本のサラリーマンでいうところの

「5時から男」ならぬな「5時から女」というところか。


スタッフのマンションがあるColli Albaniはローマ地下鉄A線Termini駅からAnagnina方面へ

7つ目の駅にある

いくつもの路線バスの起点になっていて、駅前には出発前のバスが何台も止まっていた

駅周辺には露店も出てて、賑やかな雰囲気がある

駅を出てすぐの坂道を登ったところに古臭い10階建てマンションがある

その8階の一部屋が社宅になってて、上の9階は中国人が住んでるということだった

壁は薄いが天井も薄い 上階の中国人が夜中に掃除機をかける音が部屋に響いてくる

マンションには一台だけエレベーターが設置されていた

エレベーターは木の造りで年代を感じる

ホラー映画のようにゆっくりゴトゴト音を立てて動く

中は個室のトイレくらいの大きさで、大人2人乗るといっぱいいっぱだった

そしてたまに、動かなくなる

乗車時に動かなくなると修理スタッフが来るまで閉じ込められるという噂だった


何もかもが不便で1日が終わるとドッと疲れが襲ってくる

そんなある日、 ROMEでストライキが発生した よくある話だが私たちには大問題だ

私はストライキが発生する時刻より先にColosseoに到着してたが

角尾くんは地下鉄に間に合わなかった

規模によってはバスが運行してる場合もあるが、とんでもなく混んでいて

乗るのに躊躇してしまう

そういう状況下で、角尾くんはColli AlbaniからColosseoまで歩いて出勤してきたことが

あった

私は思わず「地球の歩き方」にちなんで「角尾の歩き方」と命名した

しかし、よく考えるとRe di RomaからColli Albaniまではローマ帝国時代アッピア街道が

一直線に通っている

道沿いを普通に歩けば自然とColosseに到着するという寸法だった

皇帝に見立てた角尾くんの凱旋する姿を思い浮かべて、少し腹が立った

しかし、30℃越えの炎天下の中 約5Kmの道のりを真面目に歩いて出勤してきたのは

偉いと思い直すことにした。


Colosseoの仕事は1ヶ月先輩の角尾くんが指導してくれた

デリバリーに行くレストランの場所を、たどたどしく教えてくれたのがとても懐かしい

たまにしか行かない地下鉄A線Ottaviano駅から東へ離れたところにツアー客が利用する

レストランがある

店の場所を私に教えるべく、角尾くんと一緒にレストランに向かった時があった

Ottavianoを降りてから角尾くんの様子が急におかしくなってきた 

道に迷ってしまったのだ 電話で誘導してもらっても時すでに遅し

デリバリーの時間はとっくに過ぎてしまった

迷いに迷った挙句、散々連れまわされ写真すら渡せなかった角尾くんが、私に発した言葉

「さあ、今日でお店がわかりましたね 次は一人で行ってください」

この時、初めて角尾くんのアホさに気づいたのだった。


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