ID400という出来事

澤田知子 

狐の嫁いり review


現在、東京都写真美術館では新旧、複数のシリーズを組み合わせた

澤田知子の新作「狐の嫁いり」が同館2階展示室で開催されています

展示は3月2日より始まっており5月9日まで行われるということです

楽しみにしていた展示なので私も早速行ってみました




澤田知子の作品の特徴といえば

自ら写真を撮るわけではなく

変装を施したセルフポートレイトを素材にした写真を使用し作品を制作しています

「外見と内面の関係を追求」し、背景やその「問い」は現代アートに属しています

その一貫したテーマは現在も変わることがなく、本作「狐の嫁いり」へと昇華されて

いました

グリッドに沿った配列と分類された作品群は進化と多様性の過程を

理解する上で重要な役割となっています

網羅的な陳列作業を施し、作品世界を総覧するということは

見る側に立って遠くまで見渡してみたいという、欲望にもつながっているのだろうと

考えられます



私が澤田知子を知ったのは1990年代後半のことでした

澤田は2004年に第29回木村伊兵衛写真賞を受賞し世間に広く周知されました

しかし受賞数年前にも写真業界紙に澤田知子が紹介され

自ら撮らないという澤田のスタイルに賛否両論が繰り広げられていたと記憶しています



当時私は営業写真館に撮影助手として弟子入りしていました

勤めた写真館は学校アルバムを制作していたこともあり、大量の証明写真を制作していたのでした

すでに時代はカラー写真に変わりモノクロ写真は衰退の一途を辿っていたのですが

私の先生は昔からの技法を頑なに守ってる人でした

私は撮影より先にモノクロ写真のプリント技法を覚えることになりました

現像液も昭和初期より伝わるレシピがあったり、紙も大全紙から「みの版」という

サイズに自らカットしていきます

思っていたのと違った写真の魅力に、私はすっかり取り憑かれてしまいました

営業写真の技術といえば、ネガ修正というものがあります

照明によって出来た皺や影を、ニスを塗ったネガに直接鉛筆で薄く描いていきます

相当な熟練の技を要しますが、写真師であるための生命線と言っても過言ではない技術です

私は暇さえあればネガ修正を練習してはプリントを繰り返し、何千枚と写真を制作していました

そういう時に澤田知子の証明写真を使用した作品を知ったのです

別世界の話なのか、唖然としたのを覚えています

しかし否定感はなく、むしろ親和性を生んでるというのが澤田知子の作品を見た

最初の印象でした




写真はアートである以前に保存が前提としてあります

技術が体系化され、再び公開していく対象をテキスト化していくと

学問としての側面が際立ち、その共通言語が優先され理解されないものは淘汰

されてしまいます

文化の土着性が育まれる間、道筋として澤田知子の作品「ID400」が出現したのは

日本写真史の流れを大きく変えた出来事であったと今回証明されました


自ら撮る行為を放棄し、

試行錯誤しながら習慣化された澤田知子の思考は、存在してないものに注意を向ける

創造性へと繋がり、

写真の持つ意味をも変えたのだと、あらためて感じています



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