見たまま撮るだけでは辿り着けないパーソナルなメルヘンの世界
緑川洋一が求めてたのはイメージとしての風景だった。
知る人ぞ知る 風景写真の第一人者 緑川洋一の瀬戸内海
『国立公園』、『海のメルヘン』で知られる風景写真の新境地を開いた写真家
緑川洋一の「瀬戸内のメルヘン」が、2024年1月4日(木)~3月27日(水)まで
フジフイルム スクエア 写真歴史博物館にて開催されています。
多彩な作品群を発表した緑川洋一でしたが、発想の源は幼少期に見た朝日の記憶こそが
写真家としての原点だったのです。
緑川洋一は岡山市の中心から東へ30kmほど離れたところに位置する虫明に生まれる
本名は横山さとし
幼少の頃、父との散歩で見た朝日の記憶から写真を始める
瀬戸内は緑川少年の心の永遠の原風景。
何人にも縛られない自由な発想はアマチュアイズムによるものであるに違いはありません。
光の魔術師といえば、世界的に有名なエルンスト・ハースを思い浮かべてしまいますが、
緑川洋一は、風景に特化した童話的世界観に織り込められた愛着と、方法の必要性から生まれた用実が感じられます。
開眼した「夜の鳴門急潮」
決定的瞬間、報道や記録写真だけが写真なのか?
個性を追求した緑川洋一は、時代によって阻まれます。
しばらく続いた模索の時代を経て、写真でしか作り出せない表現に到達していきます。
30分もの長時間露光で生まれた「夜の鳴門急潮」で、世に見出されました。
その後は、緑川流のフォトモンタージュを次々と制作し、単純化と光と影を意識した
モノクロ作品を制作していく事となります。
他の追随を許さない探究心と技巧を凝らした実験的作品群は、より童話の世界に近づいていったのでした。
当時の緑川は「傑作は夜に作られる」という名言も残しています。
一度見たら忘れることはない緑川洋一のメルヘンの世界。
何枚もの写真を合成し、リスフィルムを作り、フィルターで世界を作っていく。
物によってはカメラさえ変えてバラバラに撮影し、一つにプリントしていく相対的な過程を見てると、仕事の継続というよりも、本当のあり様に向かってどんどん進化してることに驚かされます。
黒と白の二元論から、外遊したフィンランドの風景を観て、拡張した色とりどりの景色
カラー写真に変わります。
「一つの画面へこんな色があったら、これはひょっとしてうまくいくんじゃないか。
子供のころ見つけた、あの色の海が、、、、。」
FUJIFILM SQUARE
「入陽の海」
カラーフィルターを重ねて撮影し、3回シャッターを切る
モチーフは変わらず、瀬戸内にこだわった作品である
プロセスが複雑なだけに一枚が完成するには、ひと月以上もの時間を要することもあった。
写真界に衝撃与えた緑川洋一
精巧を極め、合成への特化
緑川はスイス製のカメラバッグを背負い日本列島を歩く「国立公園」を発表します。
晩年は過去に撮った作品を組み合わせたモンタージュ作品を制作し、
生と死 生の営みという具体的なものと向き合って、抽象的な世界観を作り上げていった
のでした。
生涯78冊の写真集を世に発表した 緑川洋一
私は最後にお孫さんと共作した「花あそび」を手に入れてみました。
花という儚いからこそ美しい媒体と、無邪気さという一瞬の愛らしさは、
夢の中の色と繋がるような気がしてきます。
記憶に繋がる制作は、亡き友に思いをはせたりと、暖かい言葉が寄せられていました。
父との記憶から始まった緑川洋一の写真は、観るものにそっと寄り添うようで、
語るべき起点の甘美な色は、生命の輝きを感じます。
この世の何処にもない理想郷として描かれた、幼き日の瀬戸内の海
いつまでも観ていたくなりました。
光の魔術師 緑川洋一「瀬戸内のメルヘン」
フジフイルム スクエア 写真歴史博物館 企画写真展
2024年1月4日(木)~3月27日(水)(最終日は16:00まで)
写真歴史博物館
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