撮影済みフィルムをラボに運ぶのを私たちはスケーダーと言っていたが
言葉の由来は誰も知らなかった
2010年当時は撮影情報を人力でラボに運んでいたのだった
コロッセオの集合写真はデジタルカメラで撮影されるものの
お客さんは写真が完成されるまで、どんな風に写ってるか確認できない
しかも集合写真は買う買わないに関わらず団体客全員参加させるという力技に加え、
写真は撮影後希望した人のみ有料で受け取れるというものだった
撮影が終了し1枚日本円で1200円というと「え~高い」と本音が出る
ユーロでも構いません1枚10ユーロというとほぼユーロで購入していくのだった
面白いことに日本の首相が代わるたび世界の為替相場も変動していく
そうするとコロッセオの写真も季節の寿司ネタのように価格が変わっていった
写真は受け取るまで確認できないというのは
お客にしてみれば博打に巻き込まれたのと同じかもしれない
40名の団体ツアーでも最大20枚の注文になる
なぜならほとんどがカップルで参加しているからだ
その場で注文を取るのもテクニックがいる
世界中どこを探しても世界遺産で撮影できるのはここコロッセオだけです
と決まり文句を言うのだが
がっつきすぎると逃げられてしまうし、また名前の聞き間違いや手際が悪いと
お客はしらけてしまうのだった
また写真はコロッセオでのみ注文です これを口すっぱく言わないと
後でやっぱり欲しかった、というお客が出てきて後々めんどくさいことになる
人間力やきっぱりとした態度が試される仕事なのだった
イタリア人カメラマンは写真を2枚しか撮らない
その2枚の体感で全てが決まる
そしてフラッシュが焚かれた一瞬の目つぶりを私たちアシスタントが目視で
確認しなければならない
必死にくらいつく瞬間だった
注文した人間が自分の目つぶりを見た瞬間、写真は返品される
その対策として写真を注文数に対してPiù unoと
1枚多くラボで焼いてもらうのだ Piùとはプラスの意味だ unoは数字の1
40名の団体ツアーで10組が写真を注文したとする
そうすると5枚の写真を焼くことになる
2枚撮影うち目つぶりのない又は少ない方メインに5枚を焼き、もう一枚を予備に
焼いて持っていくのだ
仮に注文した人間がメインの写真で目つぶりしてても予備の写真で目が開いてれば
事なきを得る
他の人間が目をつむってようが自分が開いていれば良いのだ
世界遺産のコロッセオが主役といえど、どんな人間も自分の顔しか見てないことが
よく分かる瞬間であった
朝8時30分からコロッセオ写真が開店し
10時30歩分まで5件撮影が出来れば上等だった
遅番の角尾くんがコロッセオに到着し、早番の私がスケーダーでジョベルティに走る
ジョベルティは隣の駅cavour駅サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の横という一等地に
ある
わずかひと駅を地下鉄で向かうのだか、電車がなかなか来ないのもローマの風物詩
なのである
薄暗いcavour駅を抜けるとはvia cavourに出る ジョベルティまでは坂道を駆け上がらなければならない
観光客とすれ違うのを避ける為スフォルツァ通りに移動する
登り坂を抜けると正面にサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂が見えてくる
ジョベルティに到着しスケーダーを渡す
ほっとしたのもつかの間で角尾くんから
「珍しくもう一件撮っちゃいました 戻ってきてください」と電話が来る
スケーダーを渡した後なので、その一件は午後に回したい
何れにしても細かい情報を知らないのでコロッセオに戻って聞いた方が早い
コロッセオに戻ると磯野さんも居て
昼のデリバリーは私と角尾くんの二人で行うこととなった
先ほど角尾くんが撮った1件を入れて2人で3件ずつデリバリーを行うことになった
当たり前だがそれぞれ6件とも違うレストランで食事するし、もちろん時間も違う
コロッセオで即席の会議が始まる
1番効率の良い配達の順番を決めるのだ
「本日午後に帰国するから昼に絶対来い」や「午後にナポリに行くので昼じゃないと
受け取れない」というツアーを優先てきに組む
その前後で近くのレストランで食事するツアー客の元に走って届けるのだ
昼のデリバリーでツアー客と出会えない時は夕食時に繰り下がるのだが
もちろん午後もコロッセオの写真撮影は続くので
午前中の写真は昼時に捌きたいのが人情というものだろう
何が何でも届けるという意思が込み上がる
大汗かいて写真を届けるとお客たちはもう写真できたのと言ってびっくりしていた
写真の配達は後に女の子のスタッフはジョベルティのイタリア人が車で送ってくれてたりしてたそうだ
ローマの街を網の目のように走ってるバスを有効に使って配達してる利口なスタッフもいた
ローマ中を走ってかけずり回ってたのは私くらいではないだろうか
ジョベルティに行き出来上がった紙袋に入った写真の枚数を確認し、レストランへ
向かう
ジョベルティを出てサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の傾斜してる広場を
一気に駆け降りる
そして2つ信号をまたぎトリノ通りをレプブリカ駅までの直線を全速力で走って向かう
レプブリカ駅までは走った方が早いと磯野さんが言っていた
確かにテルミニ駅を経由するととんでもなく時間がかかった
レプブリカ駅に隣接してるローマ三越がほとんどのツアー客との写真の受け渡し場所と
なっているのだが、昼食どきはやはりレストランが多い
500人広場を横目にそのまま道を下りアメリカ大使館の心臓破りの坂を登って
やっと到着するのがレストランバイヤだ
幾度となく通った道で、最初は息を切らせながら向かった道ではあった
そのうち慣れてくるとジョベルティから15分切って着くようになる
石畳での坂道ダッシュ そしてゆっくり歩いてる観光客の横をすっと走り抜ける
私にとってデリバリーはスポーツだった
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